2003年3月24日月曜日

珊瑚集:暖かき火のほとり ポオル・ヴヱルレヱン


『珊瑚集』ー原文対照と私註ー

永井荷風の翻訳詩集『珊瑚集』の文章と原文を対照表示させてみました。翻訳に当たっての荷風のひらめきと工夫がより分かり易くなるように思えます。二三の 私註と感想も書き加えてみました。

ポール・ヴェルレーヌ
原文       荷風訳
(Le foyer....) PAUL VERLAINE

Le foyer, la lueur étroite de la lampe ;

La rêverie avec le doigt contre la tempe

Et les yeux se perdant parmi le yeux aimés ;

L'heure du thé fumant et des livres fermés ;

La douceur de sentir la fin de la soiré :

La fatigue charmante et l'attente adorée

De l'ombre nuptiale et de la douce nuit,

Oh ! tout cela, mon rêve attendri le poursuit

Sans relâche, à travers toutes remises vaines,

Impatient de mois, furieux des semaines !

(La Bonne Chanson) 

暖かき火のほとり ポオル・ヴヱルレヱン


暖かき火のほとり、灯火のせまきかげ、

額に指する夢見心地、

愛する人と瞳子を合すその眼とその眼、

煮ゆる茶の時、閉せる書物、

日の暮れ感ずるやさしき思ひ、

くらきかげ、静けき夜をまつ時の

云ふに云はれぬ心のつかれ、

ああわが夢心地、幾月のまちこがれ、

幾週日の遣瀬無さ、

猶ひたすらに其等を追ふ。

lueur 〈女〉 微光; 閃光. / réverie〈女〉 夢想./ nuptiale 婚礼の./attendri  感動した, 優しい./ relâche《文》中断, 休息.

細かい事ですが、荷風はお茶を「煮る」と書くんですね。『断腸亭日乗』でも頻繁にこの「煮る」が登場します。なんか出涸らしのお茶を淹れるみたいでピンと 来ないんですが、正式の漢文じゃこう言うんでしょうか。それとも荷風は質実剛健だからお茶をやかんで煮立てて淹れていたのかしら。知りたいところです。

余丁町散人 (2003.3.24)

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訳詩:『珊瑚集』籾山書店(大正二年版の復刻)
原詩:『荷風全集第九巻付録』岩波書店(1993年)

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